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南アルプスの「新南部」ってどんなところ? 市町村はどこ?

「南アルプス新南部」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

南アルプスには、北岳や間ノ岳、塩見岳、赤石岳、聖岳、光岳など、よく知られた山があります。

その一方で、登山に詳しくなってくると「南アルプス南部」や「南アルプス深南部」、そして「新南部」という、少し聞き慣れない呼び方に出会うことがあります。

この中でも「新南部」は、特に分かりにくい地域です。

地図を見ても「新南部」と書かれているわけではありません。

国立公園の正式な地域区分でもありません。

それでも登山者の間では、確かに「新南部」と呼ばれている山域があります。

では、いったいどこなのでしょうか。

どんな山があり、どこの市町村に含まれているのでしょうか。

今回は、実際に歩いたことがない立場から、地図や資料を眺めながら「南アルプス新南部」という場所を整理してみます。

そもそも「南アルプス南部」とは

まず、「新南部」を知るには南アルプス南部から考えたほうが分かりやすいでしょう。

南アルプスは、甲斐駒・鳳凰山系、白根山系、赤石山系の3つの山系から構成されています。環境省によれば、南アルプス国立公園は三伏峠を境に北部と南部に分けられています。

南部には、

  • 塩見岳
  • 荒川岳
  • 赤石岳
  • 聖岳
  • 上河内岳
  • 茶臼岳
  • 光岳

などがあります。

特に赤石岳や荒川岳、聖岳などは、一般に「南アルプス南部」を代表する山として知られています。

赤石岳は標高3,121m。

荒川岳には3,000mを超えるピークがあり、聖岳も3,013mあります。

そして、南へ進んでいくと光岳にたどり着きます。

ここまでは、まだ「南アルプス」と聞いてイメージしやすい山々です。

ところが、光岳からさらに南へ、あるいは南東方向へ視線を移していくと、少し様子が変わってきます。

そこから先に広がっているのが、いわゆる新南部です。

「新南部」は正式な地名ではない

ここが一番大切なところです。

新南部という行政区域はありません。

もちろん、市町村の名前でもありません。

南アルプス国立公園の公式な区分でもありません。

そのため「新南部はどこからどこまでですか?」と聞かれても、地図上に明確な線を引くことはできません。

実際、環境省の南アルプス国立公園の資料では、山域は北部・南部として整理されています。

一方、登山者の記録を見ると、「南アルプス南部と新南部」というように、両者を分けて表現している例があります。環境省のアクティブ・レンジャーの記録にも「南アルプス南部や新南部の山々」という表現が見られます。

つまり「新南部」は、地理的・行政的な正式名称というより、登山者の間で使われてきた山域名と考えるのがよさそうです。

この曖昧さこそが、「新南部ってどこ?」を分かりにくくしている理由です。

光岳の南側に広がる山々

では、具体的にはどこなのでしょうか。

大まかに考えると、光岳から南東方向へ続く山域と、静岡県側の大井川上流域に広がる山々をイメージすると分かりやすいでしょう。

代表的な山として名前が挙がるのが、

  • 池口岳
  • 加加森山
  • 鶏冠山
  • 信濃俣
  • 大根沢山
  • 大無間山
  • 高塚山

などです。

さらに山域を広く捉えると、静岡県側の山々へと連続していきます。

登山記録でも、池口岳・加加森山・光岳を結ぶルートを「新南部」と表現する例があります。

また、大無間山や大根沢山周辺についても「南アルプス新南部」と呼ぶ登山記録が見られます。

つまり、新南部という言葉から一つの山を思い浮かべるのではなく、

光岳から南へ続く、さらに山深い山域

と考えたほうが実態に近いのではないでしょうか。

新南部には、3,000m級の山がほとんどない

新南部を知るうえで面白いのが、南アルプス南部との違いです。

赤石岳や荒川岳、聖岳など、南アルプス南部の主稜線には3,000m級の山が並びます。

ところが、新南部へ入っていくと標高は次第に低くなります。

大無間山は2,329m。

池口岳は2,392m。

高塚山は1,621mです。

標高だけを比べれば、北アルプスや南アルプスの主稜線にある山々とはかなり違います。

それでも、この地域が「山深い」と感じられるのは、標高とは別の理由があります。

山が連続しているからです。

一つのピークに登ったら終わりではありません。

その先にも山があり、さらにその向こうにも山が続いています。

しかも、標高が低くなるにつれて森林に覆われた山が増えていきます。

高山のように、遠くから山頂を眺めながら歩く世界とは少し違います。

森の中を進み、時々視界が開ける。

また森へ入る。

次のピークを越える。

そんな山歩きが多くなるのが新南部の特徴のひとつです。

「深南部」と「新南部」は同じなの?

ここも混乱しやすいところです。

「南アルプス深南部」という言葉もあります。

そして「新南部」と呼ばれる地域があります。

両者はかなり近い場所を指して使われることがありますが、完全に同じ意味として扱われているわけではありません。

「深南部」は、静岡県側の南アルプスからさらに南へ広がる山深い地域を指す言葉として、登山者の間で広く使われています。

黒法師岳、バラ谷の頭、前黒法師岳などが代表的な山です。

一方、「新南部」という言葉は、光岳から池口岳、大無間山などへつながる山域を指して使われることがあります。

実際の登山記録を見ると、「南アルプス南部と新南部」をひとつの縦走計画として扱う例があり、光岳から池口岳方面へ入り、信濃俣や大根沢山を経由して畑薙第一ダムへ下るルートなどが紹介されています。

そのため、ここでも境界を厳密に決めようとするより、

南アルプスの主稜線からさらに静岡県側へ広がっていく山深い地域の呼び方のひとつ

と理解しておくほうがよさそうです。

新南部の山は、なぜあまり知られていないのか

大無間山は日本二百名山。

池口岳も日本二百名山です。

それでも、北岳や赤石岳と比べると、一般的な知名度はかなり低いでしょう。

その理由のひとつは、やはりアクセスです。

新南部の山々には、駅のすぐ近くから登れるような山は多くありません。

登山口まで長い林道を走る。

そこからさらに歩く。

そして山の中へ入っていく。

しかも、標高が低いため、森林の中を歩く時間も長くなります。

「標高2,000mを超える山だから、さぞかし展望がいいだろう」と考えて登ってみても、実際には樹林帯が長い。

山頂に着いても、必ずしも大展望が得られるわけではありません。

それなら、北岳や赤石岳へ行ったほうがいい。

そう考える人が多くても不思議ではありません。

だからこそ、登山者が少ない山域になっています。

それでも新南部が気になる理由

ところが、山をよく知る人ほど、こうした場所に惹かれることがあります。

有名な山頂に立つことだけが登山ではないからです。

地図を見る。

尾根を読む。

山と山のつながりを見る。

「この山から、あの山へ歩いていけるのか」と考える。

すると、主稜線のさらに外側に広がる山々が気になってきます。

池口岳から光岳へ。

大無間山からさらに南へ。

大根沢山から畑薙へ。

地図上ではつながっているのに、実際には長い距離と大きな標高差があります。

そして、登山記録を探してみると「誰にも会わなかった」「道が不明瞭だった」といった記述も目につきます。

大無間山周辺についても、登山者が少なく、ルートファインディングを求められる山域として紹介される例があります。

これは、一般的な観光地としての山とはずいぶん違います。

市町村はどこなのか

では、行政区分で見るとどうなるのでしょうか。

新南部そのものに市町村境があるわけではないため、山によって所在地が変わります。

大きく見ると、静岡県静岡市と榛原郡川根本町、そして長野県飯田市などにまたがる地域として捉えることができます。

南アルプス国立公園そのものは、山梨県、長野県、静岡県の3県にまたがっています。

環境省の資料では、関係する自治体として山梨県の韮崎市、南アルプス市、北杜市、早川町、長野県の飯田市、伊那市、富士見町、大鹿村、静岡県の静岡市、川根本町などが挙げられています。

ただし、ここで注意したいのは、

「南アルプス国立公園の関係市町村」と「新南部の市町村」は同じではない

ということです。

新南部は国立公園の公式区分ではないため、「新南部は○○市と○○町です」と一覧にしてしまうと、かえって誤解を招きます。

静岡市は新南部を語るうえで重要

新南部を考えるとき、静岡市はかなり重要な位置にあります。

静岡市は南アルプスの南側に大きく市域を広げており、北部には南アルプスの山々があります。

静岡市の資料では、静岡市北部の南アルプスについて、赤石岳、聖岳、光岳などの山々が市域の山岳地帯を構成していると説明されています。

つまり静岡市というと、静岡駅や駿河湾のイメージが強いかもしれませんが、市域の北側には非常に山深い場所があります。

都市から山へ向かって地図を追っていくと、静岡市街地からどんどん標高を上げ、大井川上流域へ入り、さらにその奥に南アルプスの山々が現れます。

そして、その周辺に新南部と呼ばれる山域が広がっています。

川根本町も新南部の入口になる

もう一つ重要なのが川根本町です。

川根本町は静岡県中部に位置し、東は静岡市、北は長野県との県境に接しています。町域は南北約40kmと細長く、その約90%が森林です。

これだけでも、山深い地域であることが想像できます。

町の北側には南アルプス南部の山々があり、大井川や寸又川などの谷が山地へ深く入り込んでいます。

川根本町自身も「南アルプス前衛の山々が織りなす景観」を地域の特徴として紹介しています。

さらに町の資料では、日本三百名山の高塚山を「南アルプス新南部の静かな山域」の山として紹介しています。

このことからも、新南部という呼び方が、特に静岡県側の山々を語るときに使われていることが分かります。

新南部は「南アルプスの続き」と考えると面白い

地図を広げて南アルプスを見ると、つい3,000m級の主稜線に目が向きます。

北岳。

間ノ岳。

塩見岳。

荒川岳。

赤石岳。

聖岳。

光岳。

ここで南アルプスが終わるように見えます。

しかし、山そのものは終わっていません。

光岳からさらに尾根が延びています。

標高は下がっていく。

森林が増えていく。

山頂からの大展望は少なくなる。

それでも山は続いていく。

その先に池口岳があり、大無間山があり、さらに静岡県側の山々へとつながっていきます。

そう考えると、「新南部」という名前が少し面白く見えてきます。

南アルプスの有名な山々の裏側に、まだこれだけの山が続いている。

それが新南部なのです。

山を「高さ」だけで見ない場所

登山を始めたばかりの頃は、どうしても標高が気になります。

3,000mの山。

2,500mの山。

2,000mの山。

標高が高いほど「すごい山」に感じます。

ところが、新南部を地図から眺めていると、別の尺度が見えてきます。

どれだけ山が深いのか。

どれだけ尾根が続いているのか。

どれだけ人の生活圏から離れているのか。

そういう尺度です。

標高2,300mほどの大無間山でも、山行記録を探すと長距離や急登、道迷いへの注意が必要な山として扱われています。

標高だけを見て「2,000m台だから簡単」と考えることはできません。

むしろ、標高が低くても山が深ければ、それだけ登山は難しくなります。

「新南部」という名前が気になる人へ

新南部について調べていると、情報の少なさにも気がつきます。

北岳なら登山情報が大量にあります。

赤石岳も、登山ルートや山小屋、アクセス情報が数多くあります。

ところが、新南部について調べると、登山者個人の記録や山岳会の記事などが中心になります。

これは新南部が観光地として整備された山域ではないことの裏返しでもあります。

登山者の記録を追っていくと、

「静かな山域」

「誰にも会わない」

「笹が深い」

「倒木が多い」

「ルートが分かりにくい」

といった言葉が出てきます。

もちろん、すべての場所がそうだというわけではありません。

しかし、少なくとも一般的な観光登山の感覚で向かう場所ではないことは、想像しておいたほうがよさそうです。

新南部を地図で眺めてみる

実際に歩いたことがないからこそ、地図を眺めていて面白いのが新南部です。

光岳を見つける。

そこから池口岳を見る。

さらに南へ視線を移す。

大無間山がある。

その周囲にも名前の知られていないピークがいくつも並んでいる。

さらに静岡県側へ下っていけば、大井川や寸又川の深い谷につながっていきます。

この山々の連なりを見ると、

「南アルプス」という名前がついているのは、3,000m級の山だけではないのだな

と思えてきます。

山脈というのは、一つの高い山があるだけではありません。

その周囲に無数の尾根と谷があり、低い山から高い山までがつながっています。

新南部は、そんな「山脈の広がり」を感じさせてくれる場所なのではないでしょうか。

まとめ――南アルプスの「さらに奥」

南アルプス新南部には、明確な行政上の境界はありません。

国立公園の公式な地域区分でもありません。

それでも登山者の間では、確かに使われている言葉です。

おおまかには、光岳の南東側から池口岳、大無間山、大根沢山、高塚山などへつながる、静岡県側を中心とした山深い地域をイメージすると分かりやすいでしょう。

関係する自治体としては、特に静岡市と川根本町が重要です。

一方で、光岳や池口岳周辺では長野県側にもつながり、南アルプス全体としては飯田市など複数の自治体にまたがっています。

そして何より面白いのは、ここが「南アルプスの南端」ではなく、

南アルプスの主稜線から、さらに山が続いている場所

として見えてくることです。

3,000m級の山を越えた先にも山がある。

標高が下がっても、森林に覆われた尾根が続いている。

人の生活圏から離れ、山と谷だけの世界が広がっている。

それが「新南部」という言葉から感じられる山域です。

まだ実際に歩いたことはありません。

だからこそ、地図を眺めながら想像してしまいます。

光岳から南へ向かったら、どんな森が続いているのだろう。

池口岳の先には、どんな尾根があるのだろう。

大無間山まで歩いたら、そこから見える南アルプスはどんな姿なのだろう。

北岳や赤石岳のような有名な山とは、また違った南アルプス。

「山頂の高さ」ではなく、「山の深さ」を楽しむ場所。

新南部という言葉には、そんな南アルプスのもう一つの顔が隠れているように思います。